【報告】MCシンポジウム管理実践報告 ③部署の課題をチームで共有する(MCチャート)-2

日本赤十字社医療センター
「組織が求める人材育成の課題の共有」

発表者:ソルステインソンみさえ看護副部長、渡邉美香看護師長

日本赤十字社医療センター看護部では、人材育成、特に部署異動に関して問題意識を抱えていました。管理室内で話し合いを行い、「今後もローテーションの流れを止めない」という人材育成方針を共有したうえでMCチャートに課題を書き起こしていきました。多角的な視点で課題を整理することができ、またMCチャートやMCサーベイの使い方についても新たな気づきが得られました。

PDFでもお読みいただくことができます。PDFはこちら

看護部の教育目標やキャリアパスの概要

発言者:渡邉看護師長

看護部の教育目標

当センター看護部の教育は、看護部の理念を実現するために、看護者及び看護補助者の能力開発を支援し、優れた人材を育成することを目的に、スライドにお示しした4つの目標を掲げています。

日本赤十字社医療センター看護部の教育

 

【目的】
看護部の理念を実現するために、看護者及び看護補助者の能力開発を支援し、優れた人材を育成する

 

【目標】
1. 看護専門職として、看護の実践力、教育力、研究力、管理力を高めていくことができる
2. 看護の本質をわきまえた実践ができる
3. 赤十字の職員として、人々の尊厳を守るために行動できる
4. 組織の一員として、病院経営に参画できる

キャリアパスの構造とそのねらい

以下に示したのは、当センターのキャリアパスの構造とキャリアパスモデルです。
キャリアパスモデルは、看護職としての長い職業人生を豊かに見通していく地図のようなものとして、2016年に提示しました。「長い職業人生の中で、キャリアの分岐点を意識して『なりたい自分』について考えることを看護部として支援していこう」というコンセプトがあります。まずスタッフが自らキャリアパスを計画し、部署の看護管理者などが、面談の場で動機づけや意味づけを行うことで効果が上がると考えています。

(図1)キャリアパスの構造


(図2)キャリアパスモデル


当センターのキャリアパスでは、1~3年目の看護職を「基礎力充実期」と位置づけています。この時期は、看護専門職としてのキャリアの基盤形成に重要な時期と考えています。社会人として、医療職として、看護職として、キャリアをスタートするその早い時期に、バランスの良い考え方を習得して、習慣を形成していくことは重要だからです。
そして、4~10年目を「実践能力獲得・強化期」として位置づけているのですが、この時期は一つの領域に限らず、視野を広げるために様々な分野に思い切ってチャレンジすることを推奨しています。「実践能力獲得・強化期」においては、その後のキャリアにつながる進学や出向、異動などにチャレンジすることを想定しています。部署の異動やローテーションによって様々な業域にチャレンジし、新しい知識やスキルを獲得しつつ、「一皮剥ける」ような経験をすることでさらに看護職として成長する、といったことを期待しています。

教育懇談会の場での困りごとの整理

発言者:渡邉看護師長

当センターでは毎年12月に、看護師長・副看護師長がそれぞれ一堂に会して、次年度の現任教育の策定に向けた教育懇談会を実施しています。今年度2022年度の教育懇談会は、「個人と組織にとって効果的なキャリア支援とは」というテーマを挙げ、看護師にとってのローテーションの意義や、看護職のキャリアの自律と育成に向けた支援について検討しました。
異動を経験したスタッフへの事前アンケートをもとに、看護管理者がPDPを活用して検討した結果、五つの困りごとが抽出されました。

現任教育における五つの困りごと

 

●異動によるキャリア支援の評価がされていない
●計画的な異動の妨げ
●困っている人が自由に話し合えない
●受け入れ側の準備不足
●支援が部署任せでばらつきがある

そこで、「今後もローテーションの流れを止めない」ということを看護部の共通認識として、看護部、プロジェクト、そして各部署がそれぞれ取り組んでいく方向性を定めました。

(図3)ローテーションの流れを止めないために取り組むべき課題

「今後もローテーションの流れを止めない」の方針のもと、人材育成方針をMCチャートで整理する

発言者:ソルステインソン看護師長

外発・目標

「今後もローテーションの流れを止めない」という方針のもと、課題を共有して取り組みを具体化していくために、MCチャートに整理してみることにしました。その過程で、「各自で目標を立ててほしい」という思いが強かったために、キャリアパスの各時期における「こうあってほしい」という看護師像が曖昧でぼんやりしているということに気がつきました。そこで、そもそもスタッフにどんな看護師になってほしいと思っているのか、具体的なイメージを皆で出し合っていきました。
「基礎力充実期」、「実践能力獲得・強化期」の看護師に、どんな能力を身につけてほしいのか?を具体的に話し合い、以下のように外発目標のカードを作成しました。なぜ看護部管理室の自発目標ではなく外発目標にしたかというと、求められる人材は病院組織全体・地域・社会・時代からの要請で決まってくる面もあると考えたためです。

(図4)外発・目標

先ほどの発表で、4~10年目を実践能力獲得・強化期と位置付けていましたが、ここでは4年目~7年目までの前期を「実践能力獲得・強化期」、7年目以降を「マネジメント力獲得期」にわけることにしました。

外発・問題

左下の「外発・問題」では、施設の状況や看護師の離職データ、MCサーベイの結果などをもとにカードを作成してみました。

(図5)外発・問題

自発・問題

チャートの自発問題のところには、異動やローテーションを実践能力獲得・強化期の課題とした時に、予測される部署の困りごとが出てくるだろうと考えて、それを自発問題としてカードを作成しました。いくら看護管理室が実践能力獲得・強化期にてこ入れをして、「異動だ」「ローテーションだ」と旗を振っても、現場の様子を知る看護師長などは「看護管理室はそんなことを言うけど、現場は…」という本音もあるだろうと思い、カードに入れています。これ以外に、各部署で自発問題のところに本音が上がってきても良いだろうと思っています。

(図6)自発・問題

このようにチャートが出来上がってきましたが、カードが多すぎると取り組むことがどんどん増えてしまい、現場はしんどくなってしまいます。そこで、どこに重点的に取り組んでもらうのかは、現場との対話を通して各部署で決めるようにしたいと考えています。
ただ、看護部管理室としては、4年目~7年目までの実践能力獲得・強化期が重要であるという意見で一致しました。新卒~3年目までの基礎力充実期は、研修も整っていますし、院内での教育体制や各部署でのOJTも充実しています。一方で、MCサーベイの結果で「7年目以降の看護師が自身の成長を感じられなくなっている」という問題が出てきたことを鑑みて、7年目までの看護師に対して、今のうちに介入しておくことが必要であると考えています。

ロードマップのベースの提示

(図7)外してほしくないロードマップのベース

上に挙げたカードは、各部署で異動やローテーションを、部署とスタッフそれぞれに意味あるものとするためのロードマップを考える際の、看護部管理室として外してほしくないベースとなる部分です。他部署から異動してきた人に対しても、これから自部署から送り出す人に対しても、上記のような点を管理者が忘れずにいてほしい、というものです。これをもとに、各部署で異動ローテーションについてのアクションプランを立ててもらう予定としています。
このカードは、まだ院内でも発表する前にこのシンポジウムで発表してしまったため、本日この発表を聞いている当センターの看護師長たちは、これを見てびっくりしているのではないかと思います。
各部署の管理者が、異動者から何を得るか、異動者の強みをどう活かすか、送り出す人をどう育てていくか、同じ視点で考えられることを期待しています。同時に、この仕組みが組織を成長させるものであると皆が実感できるようになると、さらに良いなと思っています。

今回の取り組みを通しての気づきや振り返り

発言者:ソルステインソン看護師長

これまでMCチャートは、外発・目標、自発・目標、外発・問題、自発・問題の四つのエリアごとに、それぞれわけて考えていました。しかし今回は、浮かんだ考えをとにかく色々と書き出してディスカッションしながら、カードを適切なエリアに並べて整理していく、という方法をとったことで、管理室が重要だと思う目標をクリアにできたと考えています。
各部署に対しては、これまでは看護管理室が外発・目標のカードだけを提示して、アクションプランやその他のエリアについては各部署で考えてもらう、というようにしてきました。ただ、部署によっては、管理室でも部署でもそれぞれが様々な課題を出していくうちに、カードの数がどんどん増えてしまい、なかなか終了できずに次年度にまたカードが増えていくという状況もありました。そのため管理室と師長・副師長とのやりとりも、各カードの確認に追われてしまい、対話をする暇がない、というようになってしまって、反省しているところです。看護部管理室はとにかく課題をどんどん出すのではなく、MCチャートを活用する師長さんの視点でカードを提示することが大切である、ということに気づきました。
次年度からは、まずは管理室で四つのエリアすべてについてMCチャートを作成し、重点項目を部署に下ろしていくことで、対話を深めることにつなげていきたいと考えています。

今回、ローテーションをスムーズに進められない原因について看護部管理室メンバーでしっかり話し合ってみたところ、それぞれの考えが異なっていたということも分かりました。ローテーションの話に終始するのではなく、根底となる人材育成方針のところから話し合ってチャートに起こしたことで、様々な視点で原因を共有できた、と考えています。
また、客観的指標としてMCサーベイの結果を参考にしたところ、感じていた状況と結果が一致したところはちょっとした驚きでもあり、MCサーベイをカード作成の裏付けとして使うこともできました。

今回のMCチャートでPDCAを回していくのはこれからになりますが、各部署の管理者と丁寧に対話をしながら進めていきたいと思っています。
しかし、本日の三重大学医学部附属病院の発表で、管理者同士が互いの部署のファシリテートをしているという事例を聞き、副部長と師長との対話だけではなく、院内全体のファシリテートのシステムを作るところについても検討していきたいと、今回のシンポジウムに参加して感じているところです。

 

管理実践報告のPDFは、発表内容一覧よりダウンロードできます。

メルマガもしくは公式LINEを登録しておくと実践報告の新着記事がアップされるたびにお知らせされます。ぜひこの機会にご登録を!