三重大学医学部附属病院
「もう一歩進みたい!マネジメントに関する管理者同士の
学びの共有」
発表者:河野由貴看護師長、中西都看護師長
三重大学病院では、各部署のマネジメントを共有する機会として、毎月「部署PR会」を行っています。しかし、近年のPR会はPDPやロードマップの展開を表面的に発表するだけになってしまっています。「どのような議論が行われ、どんな気付きがあったのかについてもっと詳しく発表を行い、その後の質疑応答で理解を深めて共有したい」という思いのもと、試行錯誤が進められています。
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目次
「管理者の継続学習推進委員会」の活動内容
発言者:河野看護師長
当院では2016年から、看護部としてPDPに組織的に取り組み始め、2019年から、MCチャートを推進するための「管理者の継続学習推進委員会」を設置しました。私たちはその委員会のメンバーで、MCチャートを活用した管理者の学び合いの推進を行っています。
活動内容としては、部署ラウンドを行い、各部署のMCチャートでのマネジメントの進捗状況の確認や、困りごとの相談対応を行っています。また、他部署のマネジメントを共有する仕組みを企画しており、師長が他部署へファシリテーションを行うような仕掛けや、部署PR会の企画運営を行っています。部署PR会は、月に1回、3部署に、PDPかロードマップの発表を行ってもらい、その上でディスカッションを行っています。
「管理者の継続学習推進委員会」活動内容
●部署ラウンド:
各部署のMCチャートでのマネジメントの進捗状況確認
困りごとの相談対応
●他部署のマネジメントを共有する仕組みを企画:
各師長が他部署のPDPファシリテーションを行う取り組みの実施
部署PR会(月1回、3部署が発表)
まずは、部署PR会で実際に行った発表についてご紹介します。
部署PR会で発表を行った中西さんに、そのままデモンストレーションしてもらいます。
部署PR会での発表事例~中西さんの部署~
発言者:中西看護師長
ここからは、私が実際に部署PR会で行った発表内容を紹介します。
最初のPDP展開
当院はPNS看護体制をとっていますが、この部署では最初の困りごととして、「リーダーの情報収集やチェックに時間がかかる」ということが挙がっていました。
具体的には、リーダーが情報収集をするのに30分以上要することがあり、スタッフはリーダー業務を担うことを大きな負担に感じているという状況がありました。
以下は、実際に展開された困りごと整理シートです。
(図1)困りごと整理シート
最初の困りごとである ①「リーダーの情報収集やチェックに時間がかかる」について、なぜそんなにたくさんの情報収集をしているかというと、②「すべてを知っていないと不安になる」ということがわかり、これを真の困りごとに設定して分析していくことにしました。
以下は、その行動計画立案シートです。
(図2)最初の行動計画立案シート
真の困りごとを細分化していると、非常にたくさんの項目が出てきてしまいました。上記のシートで見えているのは5行程度ですが、実際には20項目ほど挙がっています。
あまりに項目が多すぎるので、これが真の困りごとでいいのか、これは問題の本質ではないのではないかと考え、もう一度最初の困りごと整理シートに戻って考え直すことにしました。
「困りごと整理シート」に戻り、真の困りごとを再設定する
(図1)困りごと整理シート(再掲)
ここでは、「なんのためにリーダーは情報収集をしているのか」ということを考えました。そうしているうちに、③「デイナースの仕事に漏れがあるから」、④「デイナースは自分たちのすべき業務をわかっていないのではないか」といった原因が出てきて、次第に視点がデイナースの業務へと向かっていきました。
その後もラベルを並べ替えたり、必要なラベルと不必要なラベルを取捨選択したりしながら展開していましたが、展開が難渋してきたため、他部署のファシリテーターに入ってもらいました。ファシリテーターからは ⑤「リーダーは、本来の役割や業務を認識しているのか?」という意見をもらい、それにより視点がまたリーダーのことへと戻ってきました。
さらに整理を進めていき、⑥「リーダーは、デイナースが漏らしたことを自分が補わなければならないと思っている」ということを、真の困りごとに再設定しました。
以上が、私が部署PR会で行った発表内容です。
部署PR会に対する委員会メンバーのもやもや
発言者:河野看護師長
中西さんから発表してもらったように、現在のPR会の発表内容は、「こんな問題や目標があり、こんな展開をしました」という、取り組みの内容や状況のみをさらっとなぞるような発表が行われています。
PDPやロードマップを使った取り組みを共有ができるということ自体は、すごく良いことだと感じています。しかし、PR会もすでに4年目を迎えており「せっかくの機会なのに、発表用に整えられた展開が、さらっと発表されて終わってしまい、質疑もほとんど出ない」という状況に、委員会ではもやもや感を感じるようになっていました。
私たち委員会としては、現在のPR会から一歩進んだ会にしていくために、「PDPを展開しアクションプランを設定していく過程で、どのような議論が行われ、どんな気付きがあったのかについてもっと詳しく発表を行い、その後の質疑応答で共有できるようになれば」と感じています。
その第一歩として、中西さんの部署PR会での発表について、委員会で振り返りを行うことにしました。
PR会の後の振り返り
発言者:河野看護師長
PR会の後に中西さんと委員会のメンバーで振り返りを行ったところ、「その部署では当たり前だと思われていたリーダー業務について、部署異動してきた副師長さんは違和感や困りごとを抱えていた。長く在籍している師長・副師長が、異動してきた副師長の意見を尊重し、当たり前だと思ってきたことを問題だと捉え直してPDP展開を行ったところが良かった」と感じた、というコメントが出てきました。
また、以下のような率直な質問が出てきました。
振り返りの際に出てきた質問
●PDPで展開してみた結果、それまでと違って、どんなことが見えてきたのか?
●細分化の途中でもう一度困りごと整理シートに戻ったのは、なぜなのだろう?
●他部署の師長にファシリテーションに入ってもらったら、どんな違いがあったのか?
このようなコメントや質疑に関してさらに対話を行うことで、発表内容にあったPDPが、時間をかけて丁寧に展開されていたこと、他部署の師長がファシリテーションに入ったことで違う視点から困りごとを捉え直すことができたことなどが、委員会の中で共有できました。
また、そのやりとりの中で、発表者自身が気付いたこともありました。それについて、また中西さんから報告してもらいます。
部署PR会の発表者が気付いたこと
発言者:中西看護師長
部署PR会後、委員会メンバーと振り返りを行った過程で、自分自身が改めて気付いたことは、以下のようなものです。
振り返り後の発表者自身の気付き
①話し合いを1文ずつラベルに書いて可視化すれば、何がどの順で起こっているのか、こんなに簡潔に整理できるんだ
②つまずいた時は、他部署の師長のファシリテーターを活用することで、「そういう考え方もあるんだ」と違う視点にハッとさせられた
③一度決めた「真の困りごと」であっても、もやもやとして腑に落ちないと感じた時は、その思いを伝えられれば、みんなが納得いくまで話し合い、腑に落ちる「真の困りごと」にたどり着けるんだ
PDPを展開する過程では、話し合いの内容をラベルにして可視化していくと、たくさんのラベルが出てきてしまいました。それを、「このラベルはここに来るよね。」「このラベルって、いらないんじゃない?」「このラベルとこのラベルって、本当につながっているのかな?」などと言いながら、時系列や因果関係を考えて並べ替えていくうちに、徐々に困りごとの全体像が整理され、すっきりしていきました。こんなふうにラベルを並べ替えながら整理していくと、何がどの順で起こっているのかがよく分かり、簡潔に整理できるんだ、ということに気付きました。
また、何度話し合ってもなかなか進まずにつまずいていた時、他部署のファシリテーターに援助してもらったことで、「そういう考え方もあるんだ」と、今までの自分たちとは異なる視点にハッとさせられました。
一度真の困りごとを決め、細分化までした時に、「これでいいのかな?これは本当に真の困りごとなんだろうか?」という思いがあって腑に落ちず、どこか納得できませんでした。このもやもやした思いを師長や他の副師長に伝えると、話を聞いてくれて、さらに話し合いを重ねることができました。
このように、1枚目のシートと2枚目のシートを行ったり来たりしながら、納得がいくまで話し合うと、きちんと真の困りごとにたどり着けるんだ、ということに気付きました。
委員会メンバーが気付いたこと
発言者:河野看護師長
今回の委員会での振り返りを通じて、私は「そうそう、PR会ではこういう話が聞きたかったんだ!」と思いました。そして改めて、PR会は「この困りごとに対して、こういう発表をしました。今はこのアクションプランを実行中です」といったようにPDPの展開をさらっと発表するのではなく、発表者自身の気付きについてもっと発表が行われるような会にしたい、委員会の中で行われたような忌憚のない意見のやりとりが飛び交い、しっかりした振り返りの機会になるような会にしていきたい、と思うようになりました。
しかし、どのような仕掛けをすればそれが実現できるのかについては、まだ良い解決策を立てることができていません。
部署PR会で率直な意見交換ができるようにするためにはどうすればいいのかについて、他施設の方からもご意見をいただきたいと思っています。
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