【報告】MCシンポジウム管理実践報告 ①現場の問題を解決する(PDP)-2

石巻赤十字病院「PDPチームの活動と課題~学習する組織を目指して~」

発表者:利部なつみ看護師長、大橋泉看護師長

石巻赤十字病院では、PDPを通じた問題解決思考を院内に普及するために「PDPチーム」を結成し、PDPコンサルテーションを開始しました。しかし、チームがなかなか活用されず、メンバーはもやもやした思いを抱えるようになりました。そのもやもやをPDPで分析したところ、「現場でPDPを使った問題解決が行われるために、係長の分析的思考を高める必要がある」という課題が見えてきました。

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PDPチーム発足の経緯

本日は、当院内におけるPDPチームの活動の実際と課題について発表させていただきます。
まず、当院になぜPDPチームが発足したのか、という経緯について説明します。

(図1)PDPチーム発足の経緯


当院は、「世界一強く、そして優しい病院」を、目指す姿として掲げています。
この姿に近づくために、看護部としては「学習する看護組織」になることを目指す必要があると考えました。そこで、未来に向けて一緒に考えていける人を増やしたいという考えから、2017年にコーチングを導入しました。
コーチングは、皆さんもご存知のこととは思いますが、一方的に相手に教えたりアドバイスしたりするのではなく、対話を通じて目標や未来のビジョンについて引き出していこう、というところが重要なコンセプトとなっています。ただ実際のところ、当院では高い目標に向かっていくというよりは、問題を抱えて困っている人たちが非常に多い、ということが明らかになりました。そこで、目標管理よりもまずは問題解決に取り組む必要があるのではないかと考え、2020年にPDPチームを発足しました。そして翌年の2021年からは、MCチャートの活用を開始しました。

PDPチームの狙いは、PDPを活用し、対話を通じて共に考える仕組みをつくっていこう、というところにあります。看護の現場はどこも困りごとで溢れていますが、PDPを活用して一緒に問題解決の方策を考えることで、もっと楽しく看護に取り組めるようになれば、という思いを持って活動しています。

PDPコンサルテーションの開始

PDPチームの概要

PDPチームのメンバーは以下のように構成されています。

PDPチームのメンバー構成

看護部長
看護副部長:2名
看護師長:2名 ※宮城県看護協会のファーストレベル支援者
看護係長:6名
事務職員:1名

看護管理者を中心に構成していますが、多職種の意見も取り入れたいということで、事務職員の方にも入っていただいています。

宮城県看護協会のファーストレベル研修の中に、ノトコードの平林さんのPDPの講習があるのですが、当院のPDPチームでは、毎年チームメンバーのうち3名程度が、受講者たちの支援者という形で講習に参加しています。

PDPチームの活動開始までに行った準備

PDPチームの活動の中心は、院内のPDPのコンサルテーションです。その活動を始めるにあたり、次のような準備をしました。

PDPコンサルテーション開始までの準備

①PDPチーム内でお互いの困りごとを持ち寄り、PDPを展開する
②コンサルテーションの仕組み作り
③固定チームリーダー研修会で困りごとを持ち寄り、PDPを展開する

①については、最初の2~3か月くらいの期間で、PDPチーム内でPDP展開を繰り返し、チームのファシリテーション力を高めていきました。
それと同時に、②のコンサルテーションの仕組み作りも行いました。まず院内に「PDPコンサルテーションのご案内」というリーフレットを配って周知しました。また、PDPコンサルテーションの活動日を、毎月各週水曜日の13時から2時間程度を目安に確保しました。院内メールでいつでも誰でも申し込めるような体制を作り、申し込みが来たら、チームのメンバーが申込者の部署を訪問して一緒にPDPを展開する、という仕組みになっています。

2020年8月~2023年1月までのコンサルテーションの内容

以下の表は、PDPチームの活動開始から今年の1月までに、実際に私たちのチームに寄せられ、コンサルテーションを実施した困りごとの一覧です。
表の左側の、最初の困りごとの傾向としては、スタッフの育成に関することや業務の整理、時間外の業務といった内容が多いように感じました。

(図2)2020年8月~2023年1月までのコンサルテーション


最初の困りごとと、右側の真の困りごとを見比べていただくとわかると思いますが、やはりPDPを通じて、「本当に困っていることは何なのか」「どこにつまずいていたのか」といったところの読み替えがきちんとできていると感じています。
PDPチームのコンサルテーションを受けながら現場でPDPを実施するという取り組みは、困りごとを分析するという点ではかなり効果があったと、チーム内では評価をしています。

PDPチームが抱える「もやもや」をPDPで整理する

しかし、このように活動を続けるなかで、私たちは次第にもやもやした気持ちを抱えるようになりました。
活動当初は、「現場には困りごとがたくさんあるはずだから、コンサルテーションをたくさん受けてもらい、一緒にPDPを展開することで、問題解決の思考をどんどん現場に普及させていく」という展望を抱いていたのですが、実際にやってみると、なかなかコンサルテーションの件数が増えていかなかったのです。
コンサルテーションなど、PDPを行うための支援体制を作ったのに、支援を受けてもらう段階まで進めないため、PDPチームを十分に活用してもらえていない。
私たちのもやもやした気持ちは、そのあたりから出てきているようでした。

今回、このシンポジウムで発表するにあたり、平林先生から「PDPを使って、この『もやもや』を整理してみてはどうか」という助言がありました。そこで、自分たち自身でPDPを展開し、整理・分析していくことにしました。

困りごと整理シート

(図3)困りごと整理シート

最初の困りごとは「(せっかくチームによる支援体制を作ったのに)PDPチームが活用されない」と挙げました。
この困りごとの原因の一つとして、「困りごとが発生してから実際にコンサルテーションを行うまでに、どうしてもタイムラグが生じるため、現場でなかなかチームの有用性を感じにくいのではないか」と考えました。
また、現在当院では各部署でMCチャートを作成してもらっており、どの部署も、MCチャートの右下に来るような自発の困りごとの欄には複数の項目が書かれています。しかし、そうした困りごとが私たちチームのところまで上がってこない、という現状がありました。その原因としては、「日々の業務の中で小さな困りごとが非常に多く発生しており、それらに翻弄されているために、MCチャートにあがってくるような、部署運営に関わるようなスケールの大きい困りごとなどが後回しになってしまっているのではないか」と考えました。
そして、なぜ目先の困りごとに振り回され、MCチャートに挙げたような問題が後回しになってしまうのかというと、現場の困りごとをよく知る立場にある係長たちがうまく問題解決をできていないのではないかと考えました。そこで、「PDPチームとして、係長たちにもう少し何かアピールをしたい」という思いが出てきました。

PDPチームの本来の目的は、チームが活用されるようになることではなく、現場の困りごとが解決されるようになることです。そのことを念頭に置きながら、真の困りごとは何かと考えました。
そして、チームとして最もやりたいことは、係長たちの問題解決のお手伝いをするところだと考え、「係長の問題解決能力が不十分」というところを真の困りごとに設定しました。

行動計画立案シート

次に、行動計画立案シートで真の困りごとを細分化・分析していきました。
細分化の際は、「問題解決のスキルを高めるためには、どのような思考のステップが必要か」というところを検討し、以下のような六つのステップを挙げました。

係長の問題解決スキルを高めるための六つのステップ

①問題の認識:スタッフ・患者さんが困っていることに気付ける
②共感的傾聴:困っているスタッフの話を丁寧に聞いている
③分析的思考:困っている状況について具体的・分析的に情報が取れる
④解決策の立案:一つひとつの問題に対して、具体的で適切な(=す・じ・こ)解決策を立てられる
⑤実行力:チームを巻き込み計画を実行できる
⑥PDCA展開能力:一連の取り組みを振り返り、評価・改善する力がある

次に、この六つのステップの中で、具体的にどこができていて、どこが不十分なのかを考えました。
①「問題の認識」、②「共感的傾聴」、④「解決策の立案」、⑤「実行力」については、今の段階でも十分にできていると評価しました。一方で、③「分析的思考」と⑥「PDCA展開能力」のところはまだ不十分だと評価しました。

これに対して、どんな解決策を立てれば良いかをチーム内で話し合いました。「PDPを普及させるための研修会の開催」「PDPチームにもっと係長さんを入れる」「宮城県看護協会のファーストレベルのPDP講習に参加してもらい、ファシリテーターの役割を経験してもらう」といった解決策が出てきたのですが、なんとなく腑に落ちず、まだもやもやした思いが残っていました。
なぜ『もやもや』が残ってしまったかというと、解決策が大きすぎて漠然としてしまっているのだろう。解決策が漠然としてしまうということは、まだ細分化が十分ではないのだろう、と考え、また平林先生に助言をいただきました。
そして、③の「分析的思考」のところをさらに細分化してみることにしました。

(図4)行動計画立案シート

分析的思考をするためには、まずスタッフが抱えている困りごとを把握することが必要です。当院の係長は、困りごとをスタッフから聞いて受け止めるということは十分できているように思います。しかし、困りごとの傾聴モードから、「よし、じゃあその問題を解決しよう」という問題解決モードに切り替えるところがうまくできていないのではないか、と考えました。また、困りごとを受け止めた後に、「実際に何が起きているのか?」「何につまずいているのか?」というところを具体的に把握できていないとも考えました。
この二つの点に関してアプローチする必要があると認識をしたものの、まだ有効な解決策は見出せていない状況です。

まとめ~PDPチームの課題の変遷~

このように、PDPチーム内でチームの課題についてPDPを行ったことで、当初挙げていた「PDPコンサルテーションをいかに増やすか」という課題が少しずつ変遷していきました。

(図5)PDPチームの課題の変遷

まず、コンサルテーションの件数が増えさえすればいいわけではなく、最も重要な目的は「看護の現場でPDPを活用した問題解決ができるようになる」ということだ、と整理しました。
そして、「問題解決ができるようになる人」は誰なのか、もっと対象を絞ろうということになり、係長に着目することにしました。さらに、係長の問題解決能力の育成にあたり、最も重要なのは「分析的思考ができるようになる」ことだ、と絞り込みを行いました。
最終的には、分析的思考の中でも、「困りごとを受け止めても、その後問題解決モードに切り替わらない」「何が起きているのか、何につまずいているのかを具体的に把握できない」という2点にアプローチすべきであると感じ、現在はその解決策を練っているところです。

自施設の係長教育について、自分たちだけで考えても行き詰まってしまうため、ぜひ、このシンポジウムにご参加の皆さんにもご意見をいただければと思っております。

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