近畿大学病院
「人工透析部看護師の看護実践力向上に向けて」
発表者:人工透析部 五島尚枝主任
人工透析部では「スタッフ全員がそれぞれの役割に応じた急変対応ができるようになる」という目標を立て、2022年度にはスタッフ皆が主体的に参加できる研修を開催することができました。しかし「この方策でどのステップを達成したいのか」が不明確なまま取り組んでしまっていたため、今回改めて取り組みを振り返りながらロードマップを再作成しました。その結果、次年度以降のより具体的なアクションプランを立てることができ、今後MCチャートに取り組んでいく自信にもつながりました。
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MCチャートの導入と人工透析部の目標管理の流れ
当院では数年前からMCチャートの研修を重ねてきました。本年度は、昨年度までのSWOT分析をもとにした目標管理から、MCチャートに完全移行しました。
本日は、2022年度の人工透析部の目標管理についてお伝えします。
●4月:看護部長・部署担当看副護部長を経て、各所属長に、部署の外発目標(部署に期待すること)が伝達される。各部署は外発目標を踏まえて自発目標について対話を重ねて、新年度の目標を立案。
●5月:部署の運営に関わるスタッフと共に、部署の状況を踏まえて課題に優先順位をつけ、今取り組むべき課題を絞り込む。
●6月:他部署(がんセンター)との意見交換会を実施し、活動を開始。
MCチャートの導入初年度であり、不安はあったものの、当初は「やっていけそうだ」という気持ちもありました。しかし、実際に取り組んでみると、チャートの使用方法や目標の言語化が難しく、分析を十分にしないまま計画を立案し、実施していくことになってしまいました。
当院では、毎年3月に看護部で目標管理の取り組みについての実践報告会があります。それに際して当部署でも一年間の取り組みのまとめを行ったところ、「この方策はどのステップを達成するためのものか」といった分析が不足していたことに気付きました。そこで、改めて目標についてロードマップに落とし込み、分析し直しました。
今回は、目標達成のための一年間の取り組みと、年度末の分析をどのように展開したかについてお話しします。
当初の目標と計画
人工透析部ではいくつかの目標を挙げましたが、今回はその中の一つについてお話しします。
まず、看護部から示された外発目標は、「安全で質の高い看護実践を行う」というものでした。それを踏まえて当部署の状況を分析すると、以下のようなことが考えられました。
●重症患者(ネーザルハイフロー、トリロジー装着患者など)の増加に伴い、透析中の急変が増加傾向にある
●急変時対応が不十分と感じているスタッフもいるが、透析中の血圧低下によるショック症状発生の対応に慣れていることで、急変時の対応は十分にできている、と思っているスタッフもいる
●実際に現場で対応している時に、急変時の役割など対応が不十分なことを、他職種に指摘されるということがあった
このようなことから、「スタッフ全員がそれぞれの役割における急変対応ができるよう企画・運営する」という自発目標を掲げました。
この目標達成のための方策として、まず、今後チームリーダーの役割を期待するスタッフ(ラダーレベルⅢ)を勉強係として、部署内研修全体の責任を任せました。また、急変対応が不十分だと感じているスタッフ(レベルⅣ)と、補佐としてチームリーダー(レベルⅢ)をそれぞれ救急対応係とし、急変対応の企画運営を、先ほど指名した勉強係と協力して行うことを任せました。
管理者が、自発目標と研修の意図と必要性について説明を行い、担当者以外のスタッフの協力を得て、企画のための時間を業務時間内で行えるように配慮しました。
計画の遂行~急変対応の研修~
計画の遂行にあたって、まず6月に、スタッフに対して急変対応で実際に困った内容や、勉強したい内容などの意見を聞くことから始めました。それを受けて担当者自身が自己学習を深め、参考図書やナーシングスキルで自分の知識・技術の再習得に努めました。そして、スタッフに正確な技術を指導したいと考え、主任を含め担当者全員がAHAのBLS研修に参加し、訓練の資格を取得しました。そのうえで、以下のように研修を進めていきました。
●7月前半
自己学習:ナーシングスキルで動画研修、心肺蘇生法(一次救命処置)
講義:心停止、心停止アルゴリズムとCPRの方法(BLS)
●7月後半
実地:シミュレーションラボにてBLS(胸骨圧迫・人工呼吸)練習
●8月前半
講義:急変時の役割分担について
自己学習:ナーシングスキルで動画研修、挿管介助
●8月後半
実地:シミュレーションラボにて挿管介助練習
●9月
講義:薬剤について
●10月
講義:急変時の記録とタイムキーパーについて
●11月
講義:リーダーの役割について
●12月・1月
実地:部署内で心停止発生時のシミュレーション
●2月・3月
実地:部署内でVF発生時のシミュレーション
研修を実施した結果として、透析部看護師が企画運営することで、実際の透析患者の急変対応に特化したシミュレーション訓練を行うことができました。また、スタッフの不安や知りたいことを優先に企画したことで、受講するスタッフも自分のこととして主体性を持って研修に参加できました。
一年間の取り組みの評価・振り返り
透析部看護師は、学習が不十分だと感じている事柄や、各々が日々業務を行っている中で必要だと感じている学習について自ら吟味し、それを研修に盛り込んで企画・運営することができました。さらに、学習後に、実践したことについて振り返ってフィードバックすることで、研修の満足感を高められたと考えます。
担当者は、上司から「できていたね」と承認の言葉をもらいながら、改めて自分たちが達成できたこと・できなかったことを振り返ることができました。
しかし、目標を実現するためのステップと、それに対応する方策が明確に言語化されていなかったこともあり、アクションプランの抽象度も高くなってしまいました。今後より良い研修につなげるためにも、再度目標をロードマップに落とし込んで振り返りを行うことにしました。
ロードマップで、目標が達成された状態と現状の差を分析すると、このようになりました。
(図1)振り返りの過程で作成したロードマップ
一つ目のステップとして、「心停止・呼吸停止時(蘇生)に必要な最低限の知識・スキルを全スタッフが持っている」を持ってきました。それに対する方策が、「挿管講義および自己学習で、知識・技術を身につける。BLS/挿管介助の実践練習を行う」というものです。
二つ目に、「急変時に必要な動きを、誰もが瞬時に思い浮かべられる」というステップを挙げ、それに対して「急変時に必要な役割を全員が研修で学ぶ」という方策を立てました。
三つ目に、「急変が起きた時に、人を集めて、動ける人を把握し、必要な役割を割り振る(リーダー)」というステップに対して、「急変時のリーダーの役割を研修で学ぶ」という方策を立てました。
四つ目に、「いざという時に一連の動きができるようになる」というステップが挙がり、それに対して「シミュレーションを行う」という方策を立てました。
まとめ
人工透析部では、一年間の取り組みの後に改めてロードマップを用いて分析したことで、より具体的なアクションプランを立てることにつながりました。
MCチャートを使うことに難しさを感じていましたが、実際にロードマップに落とし込めたことで、手応えを感じました。
今回ロードマップから立てたアクションプランは、次年度以降の人工透析部の目標管理に活用でき、特に研修計画を立てる場合に参考にできることがわかりました。
目標管理や研修計画で困難さを感じている他部署でも、同じように活用できるのではないかと考えています。
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