【報告】MCシンポジウム管理実践報告 ①現場の問題を解決する(PDP)-1

日本赤十字社医療センター
「部署の困りごとの分析を通してみえてきた、がん看護に携わる看護師育成の展望」

発表者:緩和ケア病棟 スミス美保子看護師長、丸山るみ子副看護師長

日本赤十字社医療センターの緩和ケア病棟では、「緩和ケア病棟が行う医療・ケアが他の部署や患者さんに伝わっていない」という困りごとについてPDPを行いました。「す・じ・こ」な解決策が立っただけでなく、「院内全体でもっとがん看護に携わる看護師を育成していこう」という、より大きな課題へとつながっていく展望も見えてきました。

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緩和ケア病棟の概要と課題

緩和ケア病棟の概要

当センターの緩和ケア病棟(PCU)は、「患者、家族、医療従事者、皆が自分らしく生きるための場とコミュニティを創ります」を共有ビジョンとして掲げています。
PCUの概要は以下の通りです。

緩和ケア病棟の概要

●算定診療報酬:緩和ケア病棟入院料Ⅰ
●死亡退院率:約65%(2021年)約75%(2022年)
●地域退院率(在宅・施設等):約23%(2022年)
●平均待機日数:約5.73日(2022年)
●所属看護師数:26人(うちPCT専従1名、がん相談専任1名)

KPIとして、入院患者数や平均在院日数、病床利用率のグラフを以下に示します。
2020年の1~6月はコロナ病棟として稼働していたので、その期間の数値は外れ値となっていますが、全体的な傾向として病床稼働率は低下しています。
現在は、患者増と稼働率の上昇に取り組みながらも、患者や家族のニーズに応えられる病棟を目指して取り組んでいるところです。

(図1)緩和ケア病棟のKPI

部署分析から見えてきた課題

今年度の初めにスタッフにアンケートを取り、それをもとに現在の部署の状況について以下のように分析を行いました。

現在の緩和ケア病棟の状況の分析

一般病棟のスタッフとも協力・連携し合い、院内全体のがん診療の質向上への貢献が求められる。具体的には、積極的治療からBSCへシフトチェンジする患者が、PCUのイメージをもって意思決定できるようなケアを実践する
●感染拡大によって、「緩和ケアらしい」ケアの実践が制限されている。看取りに向けてハートフルな緩和ケアを提供したいと思っているスタッフのモラルディストレス(倫理的苦悩)につながりやすい状況にある
●時間外勤務には偏りが大きく、効率的で協力的な業務遂行に向けた改善が必要
●経験値の高い看護師が多いチームであるがゆえに、個々の価値観の表出や共有が苦手で、業務を抱え込んでしまう傾向にある
∟共感疲労や個々のストレスマネジメントが求められる部署であるからこそ、一人ひとりにとって心理的安全性の高い部署でなければならない
∟お互いの良いところ、課題となるところを理解し合いながら、アサーティブに表現し、お互いを信じて高め合う共育の風土を醸成していく必要がある

この部署分析の結果を見ながら、師長と副師長・主任が対話を行いました。「自分たちも異動してくるまで、PCUってどんなことをやっているのかよく分からなかったよね」「悪い意味ではないけれど、PCUに対しては隔たりを感じていたよね。だから緩和ケアについて、自信を持って患者さんに勧められなかったな」と話し合い、思いを共有しました。
そして、「転入して来られる患者さんに、緩和ケアのより具体的なイメージを持ったうえで意思決定してもらいたい。そのためには、一般病棟のスタッフとも協力していく必要がある。そうすることで院内全体のがん診療の質の向上に貢献することにもつながるが、そこがまさにPCUの使命ではないか」ということを話し合いました。

PDPで部署の困りごとを整理・分析する

自分たちだけで整理・分析した結果

PCUは単科で、一般病棟との行き来は少なく、どうしても閉鎖的になってしまいます。先ほどの対話のなかで出てきた「異動してくるまで、PCUってどんなことをやっているのかよくわからなかった」「隔たりを感じていた」という語りも、PCUが閉鎖的であることからきているのではないかと考え、まず「オープンなPCUを目指す」という課題を設定してみました。
しかし、具体的に何が問題で、誰がどう困っているのか分析しようとしても、なかなか論理的な議論ができませんでした。アクションプランも立ててみたのですが、その内容は「企画書を作成する」「転入前訪問をする」など漠然としたものになってしまい、すぐにできる効果的なものだと思えず、行き詰まりを感じました。
そうした経緯から、一度PDPを使ってしっかり自分たちの困りごとを整理・分析しようと考えました。

以下に示したのは、最初に自分たちで作成した、部署の困りごとの整理シートです。

(図2)困りごと整理シート

先ほども触れたように、PCUは、他病棟との行き来が少なく、どういった機能や役割があるのか、患者や家族はもちろん他病棟のスタッフにもあまり知られていない、という事情があります。また、一般病棟でもがん末期の患者さんの看取りが行われています。それらの結果、患者が終末期になってもPCUへの転入を選択しないケースがあったり、他病棟のスタッフがPCUを異動先として希望することも少なくなってしまったりしていると考えました。
そこで、「PCUのアピールが不足している」ということを真の困りごととして設定し、分析することにしました。

以下は、「PCUのアピールが不足している」という真の困りごとに対して次のシートで分析したものです。

(図3)行動計画立案シート

自分たちでシートを展開してみたのですが、困りごとの細分化の過程も、解決策も、全体的に曖昧で、どこからどのように手をつければよいか分からなくなってしまいました。「道のりが長すぎて次の一歩が出てこない」という状態でした。

第三者の力を借りて分析し直した結果

そこで私たちは、自分たちだけで分析するのをやめ、第三者の力を借りることにしました。すると、「これは目標なのか、それとも問題なのか?ということを考えたほうがいい」といったアドバイスをもらいました。
そのアドバイスや、「何が」「誰に」といった主語や目的語を明確にすることを意識して、「PCUのアピールが不足している」という困りごとを、「PCUが現在行っている医療・ケアが、患者と院内スタッフに伝わっていない」と読み替えました。そして、改めてMCチャートの「自発・問題」のところに困りごとを置き直し、PDPを進めていきました。

(図4)2回目の困りごと整理シート

「PCUが現在行っている医療・ケアが、患者・院内スタッフに周知できていない」ということについては、PCUのことを周知できていない結果、患者が緩和ケアの具体的なイメージを持つことができず、その結果、転入時に不安を抱いてしまうことにつながっている、と整理しました。
次に、「PCUの魅力のアピールが足りていない」という点については、その結果として、診療科の医師が今後の治療の意思決定をする際に「PCUで療養する」という選択肢が出てこなくなってしまっている。また、PCUに異動を希望するスタッフが少なくなってしまい、スタッフのキャリアアップの機会が阻まれてしまう、と整理しました。
さらに、例えばペット面会や季節のイベントなど、PCUだからこそできる取り組みがあるのですが、現在はそうした取り組みがコロナの影響で中断されてしまっています。その結果、一般病棟のスタッフや医師もPCUについて患者に説明しにくく、正しい情報提供をすることが難しくなってしまっているのではないか、と考えました。
このように整理したうえで、改めて「PCUが現在行っている医療・ケアが、患者と院内スタッフに伝わっていない」ということを私たちの真の困りごととして設定しました。

真の困りごとの分析~解決策の立案

設定し直した真の困りごとについて、行動計画立案シートで細分化し、解決策を考えました。
困りごとの細分化の際は、「『何を』周知できていないのか?」を考えて、細かく洗い出しました。

緩和ケア病棟は「何を」周知できていないのか?

●他病棟より面会の頻度や時間を多く持つことができる
●デバイスやモニタリングは最小限にとどめている
●生活保護の方などにも利用していただけるような無差額の個室にも、状況によっては待機期間なく入れることがある
●患者や家族の、入院・転入前の病棟見学を受け入れていない
●コロナ禍で中断してしまっている、PCUで受けられる特別なケアを再開したいと私たちが思っている

そして、細分化した問題のそれぞれについて、かなり具体的で細かい解決策を挙げていきました。例えば、「電子カルテのトップページの『各部署からのお知らせ』というところで、PCUの面会のルールについて確認できるようにする」とか、「PCUで行っているケアや取り組みの状況をリスト化して、院内の誰もが確認できるようにインフォメーションする」などです。

(図5)2回目の行動計画立案シート

新たに見出したこれらの解決策は、すぐに実現できそうなものが多く、管理者として「よし、やろう」という動機づけにもなりました。

PDPでの対話を通して見えてきたこと~真の困りごとの読み替え~

第三者からアドバイスをもらう際に、先ほどのように細分化した「周知ができていないこと』を、誰に、どのようなタイミングで知ってもらいたいのか考える必要がある、という指摘も受けたため、検討を進めていきました。
患者さんにはもちろん知ってもらいたいですが、PCUへの転入時には、すでにBSC(Best Supportive Care)と方針が決まっており、患者さんの意思決定もおおむねできています。ですから、その前段階である「患者が意思決定をする」という場面に介入を行う必要があると考えました。そして、一般病棟の看護師がPCUで行っている医療やケアのことをもっと知っていれば、終末期の過ごし方の選択肢としてPCUがあることを、患者や家族に対して自信を持って伝えられるはずだ、という思考の整理ができました。
また、「困りごとの読み替えは何度でもしてもいい」というアドバイスももらっていたため、先ほど整理した内容をもとに、何度か読み替えを行いました。最終的には「PCUのケアを知ることが、一般病棟での意思決定支援の質向上につながるということが、他病棟のスタッフに伝わっていない」という表現に落とし込みました。

(図6)困りごとの読み替え

読み替えた真の困りごとは、この部署だけの課題というより、院内全体に関わる課題のようになりました。ただ、当センターはがん拠点病院であるため、PCU以外のスタッフもPCUについて知ることが、意思決定支援やACPの質の向上につながることは間違いないと思います。この発表の冒頭で説明した、「一般病棟のスタッフとも協力・連携し合って、院内全体のがん診療の質向上に貢献する」という今年度の部署目標との一貫性を保った課題が設定できました。

まとめ

当センターのPCUでは、師長が副師長・主任と部署内で話し合い、PDPで分析し、そして第三者からも意見をもらいました。
意見をもらったことで問題設定が変わり、それをさらに自分たちで分析していきました。その結果、実現できそうな解決策を見出すことができ、管理職として、問題解決をしていくモチベーションにつながりました。
さらに、実現できそうなアクションプランを立てていくうちに、課題の内容が自部署のことだけにとどまらず、看護部という組織に属する看護管理者として取り組むべき「がん看護に携わる看護師の育成」というところに到達し、今後の展望につなげることができました。

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