マネジメント・コンパスについて

マネジメント・コンパスの提案

マネジメント・コンパス(MC)の全体像

図1

マネジメント・コンパス(MC)は、主に部署(病棟)の管理方針を可視化し、主任・リーダー等を含めたマネジメント層が協働的に(学び合いながら)管理の仕事に取り組むためのフレームワークです(図1)。
図1の中央左側にある①の「MCチャート」が部署の管理方針を記述するものであり、ここに管理者が認識している課題(目標・問題)が書かれます。これによって主任やスタッフは、師長(自分たちのリーダー)の目標、すなわちどんなチームを目指しているか、どんな看護を実践したいかを認識することができます。また、師長が何を問題だと認識し、何を解決しなければならないと考えているのかを知ることができます。自分たちのリーダーの目標や問題意識を知ることができれば、日々の仕事や係活動の中でそれらの実現や解決に貢献することもできるでしょう。
MCチャートを使うことにより、部署の課題(目標・問題)が一覧表に可視化され、師長と主任、スタッフ、さらには支援にあたる副部長などが、その部署の課題を共有することができます。また、②の「MCサーベイ(職務満足度調査)」を使うことにより、現段階のスタッフの疲弊度を測定し、部署の課題のうちどの部分に重点的に取り組むべきかの示唆が与えられます。
MCチャートに書き出された部署の課題のうち「目標」にあたるものは、③の「ロードマップ」を作ることにより、目標達成に向けた組織の動きがチーム内で共有できるようになります。そして「問題」にあたるものは、④の「PDP(問題発見プロセス)」によって、チームやスタッフが「困っている」事象に対し、目の前の改善につながる小さな一歩が見つけられます。「目標」についても、「問題」についても、最終的には⑤の「行動計画(Action Plan)」の形に落とし込まれ、課題に対してチームがどう行動すれば良いかが明確になるのです。
この一連のプロセスが機能すれば、リーダーである師長の組織に対する課題認識のもとに、構成員が互いに支援し合いながら具体的な行動に取り組むことができます。そして、それぞれがチームの一員として組織の成長に関与できているという肯定感が高まることも期待されます。

MCチャート

図2

MCチャートは、図2に示した通り「目標達成/問題解決」と「外発/自発」という2つの軸のマトリクスになっています。目標と問題の違いについては次項で詳しく触れますが、外発と自発の違いはシンプルであり、「外発」は組織・上司等からもたらされるものや、部下に気付かされるものを指します。対して「自発」は自分(たち)自身が気づき、設定したものを指します。
この4つの観点に関して、上司(看護部)や部下(主任・副師長等)と対話しながら書き出し、課題を可視化することがMCチャートを作成する目的となります。実際に、部長・副部長の支援が得られる場で師長さんのワークを行った医療機関では、左上の「外発的な目標」について活発なやり取りが見られました。看護部長も、普段はなかなか自分の言葉で部署に対する期待を伝えられていなかったのですが、このチャートに課題を書き出すという営みを通じて、改めて師長と語り合い、対話する機会になったと振り返っていました。
このチャートをつくる過程自体が「組織学習」の重要な機会であり、さらに作られたシートについて上司・同僚・部下と対話しながら具体策について考える過程が、また学びの機会となっていくのです。ですから、チャートは常に書き換えられていくことになります。年度のはじめに課題を書き出したとしても、それらについて対話するうちに表現が少しずつ変わったり、新たな課題が見出されることもあるでしょう。このチャートが常に更新され、課題が少しずつ解決されていく過程が「マネジメントの実践」であり、「組織学習」を進めていくことなのです。

「目標」と「問題」の違い

図3

ここで「問題」と「目標」の違いについて、認識を共有したいと思います(図3)。
「問題」とは、事物があるべき姿(最低限の水準)に達していない状況を表す言葉です。問題がある状況は不快であり、早く解決したいという必然性がそこにはあります(図3において「困っている」状態の人)。そして問題と感じている事象がなかなか解決しないと、人や組織は無力感を感じ、へこたれてしまいます。従って、解決に向けて人や組織が動き出すには「たとえ小さくても、着実に次の一歩を踏み出すこと」が重要です。あれも、これもやらなくてはならない…と思うことは、困っている人にとってはかえって重荷になってしまいます。
それゆえに、「問題解決モデル」のアプローチにおいては「PDP(問題発見プロセス)」のフレームワークを使うのです。簡単には解決できない「困りごと」を分析して、自分たちにも解決できる小さな「プロブレム」を見つけ出し、それに対して「すぐにできる、じつげんかのうで、こうかてきな」解決策を立て、行動計画に落とすことが必要になるのです。

対して「目標」は、現状をベースラインとして、人や組織がこれから目指す「より良い状態」を示す言葉です。目の前の状況に困ってはいないので、すぐにでも着手しようという必然性は弱くなりがちです(図3においては「特に困っていない」人)。そのため、達成に向けて人や組織が動くためには「目標にたどり着くまでの道筋の全体像を示すこと」が重要です。
組織のリーダーの多くが「目標」、すなわち「私たちのビジョン・目指す姿」を言葉にすることの難しさを感じています。特に看護分野は、組織が目指す姿を数値目標で表しにくいため、どうしても「ビジョンを語って伝える」必要が生じてしまいます。なんとかビジョンや目標を言葉にしたとしても、キャッチフレーズのようになってしまい、具体的に何を目指したら良いかわからない…というケースも少なくありません。
「組織が目指す姿」が伝わりにくいのは、それをまだ多くの人が実際に見たことがないからです。近くにロールモデルになるような人/組織がある場合は、「あの人(チーム)のようになりたいね」と言えば簡単に伝わりますが、リーダーの頭の中にある漠然とした「目指す姿」は、他の誰にも見えません。リーダー本人すらはっきりとイメージできていないことも多いでしょう。ではどうしたら、組織の内外に「組織が目指す姿」を可視化して示すことができるのでしょうか。
結論から言えば、「現在の姿」と「目指す姿」の差を、一つひとつ具体的に示していくしかありません。多くの人が認識できる「現在の姿」を拾い上げ、「目指す姿」との間にどんな違いがあるのかを言葉で伝えるのです。そうやって「差」を現状の上に丁寧に積み重ねることによって、次第に「目指す姿」が具体化していきます。
この思考を支援するために、私たちは「ロードマップ(図1の③)」を開発しました。ここでは紙幅の関係で詳説することができませんが、グループによる相互支援の中で「目標」と「現状」の差を分析し、現実的なゴールにたどり着くまでの全体像を示すようなフレームワークになっています。